演奏家とオーケストラ
演奏家はずっと悩んでいました。自分はなぜ演奏をしているのかと。
演奏家はいいました。
わたしはあなたのなんなのですか。
するとオーケストラは答えます。
あなたはわたしの一部です。
演奏家はまだ悩んでいました。自分は自分の意思で演奏しているのかと。
演奏家はいいました。
わたしはあなたのなんなのですか。
するとオーケストラは答えます。
あなたはあなたの役割をこなせば良いのです。
演奏家はまだまだ悩んでいました。自分の役割とはなんなのだろうかと。
演奏家はいいました。
わたしはあなたのなんなのですか。
するとオーケストラは答えます。
あなたは今の自分の演奏をすれば良いのです。
演奏家はまた悩んでいました。それでも自分はオーケストラに縛られているのではないかと。
演奏家はいいました。
わたしはあなたのなんなのですか。
するとオーケストラはいいました。
では、わたしはあなたのなんなのですか。
演奏家は悩みました。自分にとってオーケストラとはなんなのかと。
長いあいだ、演奏家は考えました。
そしてあるとき突然、演奏家はいいました。
音楽家になろう。
そして音楽家になろうとした演奏家は楽器を捨てました。オーケストラを捨てました。楽譜も、衣装もみんな捨ててしまいました。
さいごに残ったのは、彼自身でした。
音楽家は、また音楽を楽しむことができるようになりました。もう、悩んだりはしません。
さいごに、音楽家はいいました。
わたしはあなたのなんなのですか。
するとオーケストラは答えます。
あなたの一部がわたしです。