忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/04/30 10:11 |
時計広場の時計

「この町の広場にはおおきな時計があるんだ。いや、町の広場にはそりゃ時計なんてあって然るべきだが、この町の時計はふつうの時計じゃない。なんていったって、文字盤がほとんど広場と同じくらいの大きさで、広場の真ん中に上を向いて埋め込まれているんだ。だから、わたしたちが広場の時計で時間を知りたいと思ったら、見上げるんじゃなくて覗き込むんだ。こう、床に敷かれたじゅうたんの模様を見るようにね。」

「大きな時計がある広場?それならこの町のちょうど中心にあるぞ。だけれど、その広場には行かないほうがいいぞ。広場に行くといって出て行った旅人は、いまだにだれも帰ってこねぇからな。この町のやつらはだれも広場のことや町の外のことなんて気にしねぇ。それどころか毎日同じところで同じことをしてる。それで満足なんだ俺たちは。お前も広場に行くのか?」

「父の話では、この町は僕たちのご先祖がこの町に住み始める以前からこの場所にこの形であったそうです。あなたが興味をもっている広場の時計も、当時からずっとあったと言われています。僕の祖父もこの町で生まれ、祖父の祖父もこの町で生まれ育ったそうですが、だれも実際に広場まで行ったことはないんですよ。ただ、それでも広場のことを町の人が知っているのは、ごく稀に広場から旅人が帰ってくるからなんです。…。ええ、たしかに広場から帰ってきますよ。でも、その人たちがいったいいつ広場に向かったのか、それどころかいつ外から町にやってきたのか町の人は誰も知らないんです。それに、その人たちの服装はどう見ても今のものじゃない。とても古い服装のように見えるんです。どれくらい古いのかわからないくらい古い。言葉も少しちがうんです。そして、必ずこう言うんです。『ここはどこだ?』って。」

「わたしはもうかれこれ20年、この町に泊り込みで、町で起こっている不思議について研究しております。もちろん、広場の時計のことですよ。あれはただの時計ではありません。それはあなたもおわかりでしょう?知っていますよ、あなたもこの町の人々からいろいろ情報を引き出そうとしているのは。なにか掘り出し物の情報をつかんだら教えてくださいよ。そうですね、わたしも一つ、あなたにお教えしておきましょうか。最近発見したことなのですが、この町の外側、つまり時計の広場から遠い場所に住んでいる住人ほど、早く歳をとるんですよ!わたしが20年間、この町のなかで中央の時計の広場についての情報を集めている間、町の端のほうでは、20年前わたしより若かった青年がすでに孫を残してこの世をさっていたのですよ。わたしは結婚してはいますがまだ孫なんて歳じゃないのに。やはりこの町、なにかありますよ。この謎を解くまでは、国には帰れませんね。」

「町の端のほうには行ったことがあるかって?いや、だって、井戸はすぐそこにあるし、わざわざそこまで行かなくても生活できるんだよ。もちろん内側にも行かなくていいんだ。外から来る人はみんな僕たちの生活が不思議だって言うけど、僕たちは何世代もこうやってきたんだ。だから不思議なことなんて無いんだよ。」

「お若いの、おぬしもこの町の神秘に気がついたのか?何十年か前、おぬしのように、この町に興味をもった若者が外からやってきての、時計の広場に行けば全てわかるといって勇んで行きおった。けれど、まだ帰ってはこんのじゃ。その若者とは別に、何年かに1度、古めかしい格好をした者が町の中心の方からやってくることがある。彼らは決まってとても不思議そうな顔をしてこの町並、そして住人を眺めるんじゃ。そして、ここはどこだ?と必ず聞く。ここは時計の広場がある町だと言うと、なにかを悟ったかのように、なにも言わず町のはずれのほうにむかって歩いていってしまう。彼らが悟ったような顔をみせたとき、どこか寂しさもにじませておったのう。彼らがいったい何者なのか、町の中心部に住む者たちなのか、それとも町の外からやってきた旅人なのか、誰にもわからんのじゃ。みんな、初めてみる顔なのじゃ。そうじゃ、なにかの助けになればいいがな、わしのおじいさんがまだ若いころは、町には厳しい掟があったそうじゃよ、内にも外にも求めてはいけない。とな。覚えておくと、良いかも知れんな」

「そう、その青年はたしかカリナと言いました。この町の青年ではありません。何十年も前?いえ、数年前だったと記憶していますが。彼は、時計の広場に行きたいと言っていました。なんでもこの町の不思議が解けるだとかなんとか。わたしは生まれてこの方30年はこの町で暮らしていますが、そんなに不思議な町には思えませんがねぇ。よほど退屈な生活をしていたんですかねぇ。あなたも広場に行きたい?そうですか。聞いた話だと、この道をずっとまっすぐで、広場に着くみたいですよ。」

「カリナさん?つい先日広場への道を尋ねていかれましたよ?ちょうどあなたと同じくらいの歳の。」


変わらぬ町並み、人、空。見た目にはなんの不思議も無い。ありふれた町。一つだけ違うもの、それは、目の前に広がるとてつもなく大きい、時計。広場と一体化していて、文字盤の上を歩くことができる。そして気づく。時計の上にいる人たちは静止している。あからさまに異常な光景に、走って近づく、すると、みんな動き出す。それでも、止まったままの人もいる。それは時計の針を固定している軸に腰掛けている青年だ。ピクリとも動かない。いまさら気がついたが、時計は動いていない。その青年に話しかけるべく、時計の中心にむかった。

「キミも、この町の不思議に心惹かれてしまったみたいだね。この町は外の世界とは違うんだ。でも、町に住んでいる人はそのことを知らずに生きている。知らなくても生きていけるように、昔町に住んでいた人たちが戒律を作ったんだ。内にも外にも求めるなって。だから人は自分のごく周囲で全ての生活が完了するようにした。何世代もそうしていれば当たり前になってしまうんだね。だからこの広場の周囲にいるのは、そんな生活には慣れていない旅人か、大昔からこの周囲に住んでいる町の住人か、戒律がまだできる前の町の住人かということになるんだ。きみは気づいていたのかな。この広場の時計はこの町の時間の中心なんだ。時間は中心から同心円状に広がっていて、町のはずれでは町のそとの時間とほとんど等しい。でも時計の中心、そう、ここだね、ここは時間の中心なんだ。時間の中心では人は永遠に時間の中にいることができる。時が止まっているからね。だから、ちょっと離れて僕を見てごらん。僕はキミから止まったように見えるだろう。もっと離れてみると、時計の中心近くにいる人も止まってみえるかもしれないね。でも僕たちは今こうやって止まらずに会話することができるのは、時間は相対的なものだからなんだ。ここでは僕とキミの時間はほとんど一緒に流れてる。でもキミが時計の中心からすこしずれると、キミの時間は僕の時間よりも早く進むんだ。だから僕がとまっているように見える。そういうことなんだ。さっき、戒律がまだできる前の町の住人もいるって言ったろ?この町ではそういうことが起こりうるんだ。実際、僕もさっきこの広場に着いたばかりなんだ。僕がここに座って何時間もしないうちにキミは僕のところにやってきたよ。どういうことか。キミは信じないかもしれないが、僕たちが話し始めてからもう外の世界では100年は時が進んでしまっているだろうね。それは、僕らの時間の進み具合に対して外の世界の時間の進み具合がとても早いからなんだ。そうそう、どうして町に戒律ができたかわかったかい?昔は町の人も時計の広場に足を運んだりしたんだろう。そして家に帰ってみると、数百年後の世界で、べつの家族が住んでいる。そんな悲しいことが二度と起こらないように、そんな心境だっただろうね。まぁ、どこにいたって一人が生きる時間は同じなんだ。呆然とする気持ちもわかるけれど、生きていくしかないだろう?どう生きるかはキミの自由だ。キミが自分の人生を作るんだよ。時間はもともと相対的なものなんだから。」

 

PR

2007/05/08 00:56 | Comments(0) | TrackBack() | the second act

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<ネアンデルタール人はテレパシーを使えたか | HOME | 手記_考える人へ>>
忍者ブログ[PR]