現れた二人は誘導の係ではなかった。申し訳なさそうな顔でこう切り出した。
「みなさん、今日はご来場ありがとうございます。
…今日は大変な盛況でして、…ご覧のようにたくさんのお客様がいらっしゃっていただき、現在空き席が無い状況です。大変申し訳ありませんが、満席のため客席にはご案内できません。そこでこちらからの処置としましては、このままメインの曲もこのモニターで見ていただくということと、次回の演奏会への招待状をご希望の方には今日お渡しするという形で、…今日招待状でいらっしゃった方もおられるかもしれませんが…、そういう形をとらせていただきたいと…」
モニターの前で待っていた客からはどよめきが…聞こえてきてもよさそうだったがみんなだまって、満席ならしかたないか、みたいな顔をしていた。そういうものなのかな、とユウスケは思った。
(日本人はなんてお人よしなんだ…。チケットだって無料じゃないのに。僕はチケットをもらったから文句は言えないが、この人たちはアマチュアの演奏をお金を払って聞きにきているのに、自分の席がないことになんの疑問も無いのか?)
おそらく、あの場にいた客は演奏会というものについてあまり考えたことが無いのだ。遅れてきた自分に一番の非があると思い込んでいるのかもしれない。アマチュアが1000円の入場料をとるという大それたことをやっていることになんの疑問も持たず、なおかつ席が足りなくて客席に入れないなんてことを言われたのに、自分がもう少し早く家を出ていれば…と自らの行いを後悔しているのだ。しかしユウスケは納得することができなかった。
(もしかしたら、確かに今ここにいる人たちぶんの席は無いかもしれないが、ひとつやふたつはあいているんじゃないか?それに、前プロ中プロを聞いて帰る人もいるかもしれないし。一度客席に行って探してみよう)
ユウスケはそう考えて、モニターの前で次回演奏会の招待状を受け取っている客を後に、ホールがある階へのエスカレーターへ向かった。とほとんど同時に携帯に着信があった。今日一緒に演奏を聞きに行こうと約束していた、高校から一緒にトロンボーンを始めたうっちーからだった。
「あ。うっちーだ。」携帯の通話ボタンをおした。
「はい、もしもし。」
「あぁ、牧くん?いまどこ?」
「いま、ホールの下のロビーだよ。なんかさっき満席で入れないって言われちゃってさ」
「えぇ?」
「でも、いまから一応行ってみるよ。あ。うっちーは前中聞いてたんだよね。じゃあメインの間僕に席ゆずってよ(笑)」
「はぁ?(笑)」
などと冗談を言っている間に人の波の対岸にうっちーをみつけた。うっちーに先程の話をすると、ありえないね、と言っていた。とりあえず二人は客席に入った。うっちーは最前列右側で聞いていたらしい。たしかに人が多く、最後列から中ほどまで歩いてきたが空いている席は無い。あまり大きいホールではなく、2階席はホールをぐるっと囲むようにあるが、1階席とあわせても1000人ちょっとの収容といったところだろうか。モニターに逆戻りすることを少し考え始めたとき、半分より前の中央の席にパンフレットが置かれていない席を見つけた。これは!すぐさま隣の女性に尋ねる。
「すみませんが、こちらの席は空いていますか?」
「えぇ、どうぞ」
見ろ!キタ!おもわずうっちーに振り向いてこう言った「やったw」
タイトルの「ブラ1を聞く」まで話が進まなかったが、読む人が飽きてしまうだろうので、次回に回そう。